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「でも、紗衣は自分では気付いてないかもしれないけど。
分かるんだよ、僕じゃ足りないって」
靴を履きドアに手をかけた崎田さんは、振り向かず背中越しに静かな声で言った。
「いつも求めた分しか返ってこなかったよ。
……抱いてる時ですらね」
何か言おうとしたけれど、
うまく声が出せなくて。
一瞬の間の後、
バタンとドアは閉まった。
肩から力が抜ける。
と同時に、後悔なのか虚しさなのか、それとも悲しみなのか分からない感情の波が押し寄せてきた。
恋愛は、どちらか片方ばかりが悪いなんてことはないんだと思う。
鏡のようにお互いを映し合って関係は作られるものだから。
一度はずっと一緒にいると心に決めた人だから、泥沼になっても憎みきれなかった。
これで本当のお別れだと思うと切なくて胸が痛かった。
……さようなら。
崎田さんが出ていったドアに、
そっと呟いた。
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