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「……戸川君…?」
息を切らしながら一気に走ってきた公園は人影はなくて、ただ無人のベンチだけがオレンジ色の街灯に照らされていた。
「いないの……?」
仕方なく電話する。
どこにいるんだろう。
“電源が入っていないか、電波の届かないところに…”
無機質な音声案内に途方に暮れる。
どうして?
さっきの着信は戸川君だったのに。
諦めて家に向かってとぼとぼ歩きだしたものの、ふと私は向きを変えた。
…行ってみよう。
戸川君のマンションに。
いいよね?
電話が繋がらないんだから。
一度心を決めるともう迷いは消えて、先へ先へと歩を進めた。
慣れた駅までの道も、緊張しながら辿る今日は景色が違って見える。
駅の高架を越えてほどなくして、
彼のマンションに着いた。
「えーと…203号室…」
表札のかかっていないドア。
廊下に面した小窓は真っ暗で、
家に居るのかよく分からない。
思い切ってベルを鳴らす。
……応答はない。
しばらく待ってもう一度鳴らしても、やっぱり応答はなかった。
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