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「おい、待てよ」
後ろからぐいっと腕を掴まれた。
こんな顔は見せられない。
顔を隠して必死で腕を引っ張った。
「いいから…!もう帰るから…」
「こっち向けよ」
「いやだ…!
…帰れって、言ったじゃない」
顔を隠しても、こんなに揺れる声じゃ泣いてるのは丸分かりだ。
彼の力にかなう訳もなく、両腕を掴まれて正面を向かされた。
「見ないでってば…」
彼の表情を見るのが怖くてぎゅっと目を瞑れば、目蓋から押し出された涙がポタポタと顎を伝った。
妙に静かな一瞬の間の後、
「あんな奴のために、
何回泣いたら気が済むんだよ!」
いつも冷静なはずの戸川君の怒鳴り声にびっくりして身を縮めた。
でも、一瞬遅れてその言葉の意味を理解した時、泣き顔なのも忘れて彼に向き直った。
「崎田さんのために泣いてるんじゃない!
私が泣いてるのは、」
その先を続けようとしたけれど、
胸が詰まった。
「崎田さんなんかまったく関係ないのに…」
思いを言葉に出せなくて、もどかしく戸川君を見上げた。
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