嫉妬と煽情と初めての夜#1

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「…渡辺由里とは確かに昔、大学の時に付き合ったことがあるけどほんの数か月で、それっきりだ」 「でも…ここに遊びに来たって。 …いい感じだったって言ってた」 「いい感じの訳あるか! 玄関より先に入れてない。 向こうが住所調べて勝手に押し掛けて来ただけだ。 引っ越しの手伝いするとか言って」 あいつら、と舌打ちしながら、 戸川君が苛立たしげに言った。 「あっちがどう言おうと、 今後も関わる気はない。 わかったか?」 「…わ、わかった」 あまりにも明快な否定に、嬉しさよりも気まずさが先に立った。 妙な沈黙が落ちる。 「…これが理由で泣いたのか?」 「…えっと。そうでもない…?」 駄目だ。 好きって言うはずが、いざとなるとうまく会話を運べない。 「本当は…伝えたいことがあって来たのに、戸川君怒って帰れって言うし」 「悪かったよ」 「ちが…謝ってもらいたいんじゃなくて」 人生初の告白は、不器用に口から言葉が出てくるまま、支離滅裂になった。
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