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「私…戸川君には特別な人がいるんだって知っても、き、気持ちが…後戻りできなくて」
口がもつれて、
言葉も上手に繋げない。
「他の人のことを好きなのは嫌で…、私が一番近くにいたいって思った」
もう私の気持ちなんてこれ以上言わなくても透け透けなのに、戸川君は何も言わずにいる。
「最後まで言わなきゃいけないの…?」
「言って」
まだ完全にひいていなかった涙が
また一筋こぼれた。
「あの時の、
崎田さんへの当て付けの、
キ…キスだって、悲しかった」
好きと言うはずが、言葉はもどかしくその周りをウロウロする。
「戸川君にはただの演技なんだって思ったら、悲しかった…」
戸川君の手が頬を包んで、
親指でそっと涙を拭った。
それが余計に新しい涙を誘う。
「優しくされたら、余計に、
ほ、本物が欲しくなった。
…あれはただの、演技なのに、」
「演技じゃない」
顔を傾けて近づく戸川君の息が私の唇にかかる。
「……演技じゃない」
低く繰り返された言葉は私の唇とのわずかな隙間に流し込まれて、
ぐっと私を引き寄せた戸川君が、
私の唇を優しく塞いだ。
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