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「紗衣ったら、私だけには優しいとか言いたいんだ?」
「違うって」
「でも、脈アリだと思うけどな。
噂で知る限り、戸川君が気を許して優しくする相手はいないよ。
元カノですら全く相手にしないらしい」
「元カノ…?」
胸にねじけるような嫌な感覚が広がる。
28にもなれば、
何人も過去があるのが当たり前。
だけど冷たいという彼の評判にどこか胡坐をかいていた私は、不意打ちをくらった気分だった。
「ちょっとー。
紗衣ったら顔にそのまま出てるよ、気に入らないって」
「崎田さんと付き合ってる時は元カノなんて気にしたこともなかったんだけど」
苦笑する私に、それはそれで異常だよ、と麻紀は言った。
「戸川君が渡米する年の春に入社した子だから、私達より三つ下、かな」
「じゃあ入社してから、渡米した夏まで付き合ったってこと?
それとも遠距離とか…」
今でも続いてる、とか?
恋人がいるのか、そんな大事なことを私は確かめもしてなかった。
気分がどんよりと沈んでいく。
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