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数日後。
私は三浦君と社食に来ていた。
まだ時間が早いので比較的空いていて、ちらほらと空席も見える。
「いただきます!
久々に並ばずに食べられますね」
窓際の四人掛けテーブルを確保して、三浦君は満足気に手を合わせた。
「うん。今日は余裕だね」
「でも、もうちょっとしたら忙しくなるんですよね?」
「年末は倒れたくなるよ。
なかなか倒れてくれない自分の健康体が恨めしくなるぐらい」
秋から年末は企画会議も多いし、
怒濤の勢いで仕事が降ってくる。
新年に社長が全社に通達する基本方針書の策定を担う経企室は、週末返上でホテル泊まり込みの徹夜ミーティングを繰り返す。
「僕、一昨年は異動してきたばかりで不参加だったし、去年は長期出張で居なかったから、今年が初めてなんですよ」
「そうだっけ?」
「あー、ひどいや先輩。
僕、そんなに存在感ないんだ」
三浦君がいつもの調子でぼやいてると、ふと横に人影が立った。
「ここ、いいですか?」
顔を上げると、若い女の子の二人組だった。
他にも空席はあるのにと不思議に思いながらも、どうぞと手前に立つ彼女に笑顔を返した。
ふと彼女の顔を見た時、
嫌な感覚が蘇った。
瞬間、首から下げたIDカードに目をやる。
“小野寺 唯”
思わず彼女の顔を二度見した私に
彼女はにっこりと微笑んだ。
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