繋いだ手、広がる距離

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「私も経企室の外に出て武者修業したいんですけどね…」 でも室長に異動願を却下された。 ここで育てたんだから、ここで力を発揮して欲しいと。 十年後の自分も予測がつくようで、もやもやとした閉塞感が募る。 「駄目ですよ、先輩が抜けたら仕事が回らないじゃないですか」 「三浦君がいるじゃない」 「僕はいずれ抜ける身ですから」 三浦君は社内公募で新設部門のメンバーに選ばれて、その準備期間、経企室に修行に来ている。 「でもあの部門、全然話が進まないじゃない。もう二年経つよ」 「もしかして新規事業推進室? 空中分解の可能性濃厚らしいよ。 だから三浦君も経企室に腰据えるべきだね」 片桐さんが笑って言った。 「そうか、不思議だったんだよね。三浦君て経企室ぽくないなと」 「やっぱり分かります?浮いてますよね、三浦君」 「ひどいや、先輩も片桐主任も」 仲間のお陰で社食での不快感は薄れ、笑いながら仕事に戻った。 「……先輩」 「なに?」 「あいつは嫌いだけど、先輩のためだから教えてあげます」 午後、山のような海外マーケット資料と格闘していたら、三浦君がポソッと話し掛けてきた。 「さっき社食で先輩が陰口叩かれた時。…あいつが女共に何か言ってましたよ。恐い顔してたから、たぶん文句です」 「……え」
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