幸せになる義務

34/38
4071人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
黙って話を聞いてくれた麻紀に謝った。 「結婚式の夜に、こんな話でごめんね」 「何言ってんの。紗衣が一番辛い時に何もしてあげられなくて、こっちこそごめん…」 「でも、相談してもどうにもならないことだったからね」 私がそう言うと、麻紀は尋ねた。 「戸川君を忘れられそう?」 「…忘れられないと思う。 今まで頑張ったけど無理だった」 彼の顔を思い浮かべながら、 ポツポツと独り言のように続けた。 「忘れたくないんだよ。 でも、待つのが辛くて堪らないの。 だって私の所には帰って来ないんだから。 他の人がいるんだから」 堂々巡りの自分を笑う。 「楽になりたくて、 遠い所に逃げたしたくなるの。 全部忘れてしまえるぐらい、遠い所に。 でも、忘れたくない。 ……何言ってるんだろうね、私」 ふと見ると、麻紀が泣いていた。 「ごめん。結婚式の夜なのに…」 「違うよ。謝っていらないよ」 「今はまだ混乱中で。 そのうちなんとかなるから」 「紗衣は泣いてないのに、 あたしが泣いてごめん」 麻紀は涙を拭くと、 部屋の奥から包みを出してきた。 「これ。紗衣にあげたかった」
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!