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片桐さんには笑顔を向けたかったけど、顔は歪むばかりだった。
「どうしたの?
さっきはあんなに笑ってたのに」
「ごめんなさい。励ましてもらったのに」
片桐さんが頬にハンカチを当ててくれた。
“本音はね、後から聞いても遅いんだよ”
“あの人が浮気相手ってこと?”
「もう遅いんです。
…いえ、最初からかもしれない」
「え?」
「戸川君はもう、
違う人を選びましたから」
溢れる目の奥に、彼の姿が浮かんで流れた。
「だから私は、行けません」
「待って。誰かに聞いたの?」
「……はい。
お店に海事の女の子達がいて。
渡辺さんが戸川君とロンドンに…」
両肩に片桐さんが優しく手を置いた。
「成瀬さん。
何を聞いても、自分の目で見て、
自分の耳で確かめるまでは信じちゃいけない」
「はい…」
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