結:結ぶ恋(続き)

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 「ちっ」  珍しく刻也さんは舌打ちしながら、逃れた私を置いて立ち上がる。  離れてからそろりと顔を上げると、何かを企んだような意地悪そうな笑顔を浮かべている刻也さんと目があった。  「後で、覚えとけよ」  前にも聞いたことのあるセリフに少し顔をひきつらせながらも、解放された安堵の気持ちと離れた寂しさを感じていた。  ピザを受け取って戻ってきたそれを開けると、刻也さんは第一声で私を笑わせてくれた。  「お前、三十路を太らせる気か?」  「ブフッ」  予想通りのコメントをもらって、思わず吹き出してしまう。  これが聞きたいためだけに、このメニューを頼んだなんて怒られるかもしれない。  「笑い過ぎ」  いつもみたいにベチッと額を軽く叩かれる。  ずっとそういう触れ合いもなかったから、今の私は何をされても嬉しくてたまらない。  「だって」  「ほら、食うぞ」  「ふふっ、はぁい」  怒られても笑いをこらえきれずに、小さく笑いながら返事をした。  なんだか楽しい。  密着してると幸せだけど、ドキドキし過ぎる。  でもこうやって隣にいるのは、とっても楽しくて、穏やかで、心地良い。  手を合わせて頂きますと合掌し、ピザを手に取ると刻也さんは口を開いた。  「で、お前が誰か他の奴と付き合うって話はどうなってんの?」  ようやく空腹感と言うものが回復してきて、人間らしい機能がきちんと働いているのを感じながらピザに手を伸ばそうとした矢先、不機嫌な声でさっぱり意味の解らないことを尋ねられた。  「へっ!? あの、それ。どういうことなんですか? 私そんなこと一度も言ってないですけど……」  石田さんと会う一瞬前、ほんの少しだけ心の中で思ったけど。  それは私の心の中でのことだから、違うよね?
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