330人が本棚に入れています
本棚に追加
そのまま圧し掛かられてソファーの背に両手をついた彼は、私の咥内をまた深く荒らしていく。
慣れないキスは苦しくて、でも離したくなくて――恥ずかしくて、顔がどんどん熱を持つのに嫌じゃないから困る。
とてもじゃないけど、こんなことされて目なんか合わせられない。
ただただ貪られて、私はそれを目を瞑って必死に受け止めた。
微妙なバランスの体を支えようと思わず伸ばした手が、無意識のうちに彼の首に伸びて腕を回す。
その瞬間。
リップ音を立てて、唇は離れた。
「ダメだ。これ以上は」
「へ……?」
ふわふわする思考で、何も考えられなくて、ぼんやりと声を漏らすと
「今日はこれ以上しない」
一人そう言って私の腕を解くと、刻也さんはドカッとソファーに座った。
「もう行くなよ、どこにも」
力強い声で私に言うと、私の左手をギュッと握りしめる。
ぎゅっと最後に握ってから、するりと手が離されて刻也さんは再び食事に戻った。
なんだか胸がいっぱいすぎて食事の気分がすっかりそがれた。
素の刻也さんは、私にはまだドキドキすることばかりで、受け止めきれなくて。
でも離れたくなくて、私は幸せを噛みしめる。
噛みしめながらふと解決していないあることに気が付いた。
――八重子先輩と海人さん……どうして嘘ついたんだろう?
嘘をつくような人ではない。
海人さんは前科があるけれど、少なくとも八重子先輩はそんなことしない人だと思う。
それなのに、どうしてだろうか。
気になりだしたら止まらなくて、二人のことをぐるぐる悩んでいたら
ピリリリリリッ、ピリリリリリッ
けたたましく、携帯の着信音が鳴り響いた。
最初のコメントを投稿しよう!