結:結ぶ恋(続き)

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 ――やばっ! 鳴らしっぱなしだった。  「すみませんっ」  一言断って、隅に置かせてもらった鞄から慌てて携帯を取り出す。  表示を見ると、タイムリーにも八重子先輩。  慌てて受話ボタンを押すと、刻也さんが近くに居ることも気にせずに電話に出た。  「もしもしっ」  『萌優ぅ。どうしてるのー?』  テンション高い八重子先輩の声と、その後ろから聞こえるのは俺にも貸せよ電話ーって叫ぶ海人さんの声だ。  「え、えと、あのっ」  どうしてるの? に返事が出来なくて固まった。  だ、だって!! 今、トキ兄の家に居ますなんて言えるわけがない!  しかも、ただの部下じゃなくて、その、あの……だ、ダメっ。  まだ自分では言えないっ!  刻也さんの、特別、な存在……みたいな単語、口に出来ない!!  「えーっと」  えーと、しか言えない私を余所に八重子さんはニヤニヤしてるのが目に浮かびそうな声で尋ねてきた。  「トキ兄と、上手くいった?」  「へっ!? な、な、ど、どしてですか!?」  ドキドキが止まらなくて、すっかり後ろに彼がいるのを忘れたまましどろもどろの返事をする。  「あんたちょっと落ち着きなさいよ。クスクス……一芝居、うってあげるって言ったじゃない」  「ひ、一芝居!?」  その単語を必死に頭の中から引っ張り出して、八重子さんと先日した会話をリピートした。  『一芝居、うとうか?』  『止めてください!』  ……した。けど!!  「まさか……」  「トキ兄、動いたでしょ?」  茶目っ気たっぷりで、どうだと言わんばかりに自信にあふれた声で返事が来た。  「八重子、さん……まさか、そんなことのために嘘をついたり、しませんよね?」
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