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恐る恐る尋ねるけれど、私の質問にけろりとした声音で返ってきた。
『嘘? 嘘なんてついてないわよー。一芝居しただけ。ね、海人』
『そーそーっ』
後ろから、援護射撃的に海人さんの声が聞こえる。
お二人さん。
そういうのを、一般的には芝居じゃなくって嘘って言うんですよ?
……って、この二人に伝わるわけないか。
ガクッと肩を落とした瞬間、私の右手の中にあった小さな重みがふっと消えて、無くなった。
……ん!?
「随分楽しそうな話してるじゃないか、釜田」
私の携帯を取り上げると、少し意地悪な声で刻也さんは勝手に話し始めている。
「と、刻也さ」「芝居ってなんだ?」
私の呼びかけを遮って、ちろりと私を見る。
顔は意地悪そうだけど……声、低すぎて怖いですよっ!?
怖い思いをしてるのは八重子さんに違いないのに、なぜだか異常に私の方がドキドキが止まらない。
変な汗が出そうなくらい、奇妙に緊張の糸が張りつめている気がする。
けれど、そんな風に感じているのは私だけらしい。
『トキ兄出たー!!』
『マジ!? やったな!』
電話の向こうの二人には、その糸は張りつめてないご様子だ。
一人ドキドキしているのも馬鹿らしくなるほどの、緩んだ二人に私はさらにガクッとなりながら刻也さんを見上げる。
その顔は明らかに「コイツらは仕方ない」と言っていて、思わずクスリと笑った。
「はぁ……まんまと騙された。お前らには」
そう漏らす刻也さんが少し可愛らしく見えて、また笑いがこみ上げる。
「お前が笑うな、萌優」
携帯電話を持ったまま、そう言って額をぺちりと叩かれる。
「痛いっ」
痛くはないけれど、わざとらしく額を擦って痛がってみせると、フッと笑われた。
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