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そんな私たちの様子は見えていないはずなのに、電話の向こうは凄い騒ぎが起きていた。
『うおー! 呼び捨て!!』
私の耳元にあるわけじゃないのに、ものすごいテンションの海人さんの声が聞こえてきた。
きゃー! っと叫ぶ八重子さんの声まで漏れている。
またため息をつく彼に、笑いそうになり慌てて口を押える。
これ以上笑ったら、後が怖い。
一頻り向こう側で笑う声が聞こえた後、ようやく落ち着きを取り戻した海人さんが、笑い声交じりに話し始めた。
『はぁー。笑った。でもほんと良かったです。トキ兄、すごく落ちてましたし』
「悪かったな、こないだは」
『いえ、なんか嬉しかったですから俺』
「なぜだ?」
『やー、いっつも真面目で頼れる先輩って感じなんで、トキ兄。人間っぽい焦ってるとこ見せてもらえて嬉しかったっすよ』
「全く、俺をなんだと……」
『たまにはいいじゃないですか。後輩頼ったって。罠に嵌められたって』
「良くない」
『ははっ、いいですよきっと。俺も八重子のことでは助けてもらえたんで、おあいこってことで……あ、トキ兄』
「なんだ?」
『アイツのこと、頼みましたよ? 俺の、妹みたいなもんなんで』
「言われなくても」
『ですね。じゃあ』
「あぁ。ありがとう」
ピッ。
勝手に切られてしまった。
後半、真面目に話してた海人さんの声は私には聞き取れなくて、刻也さんの声と表情しか分からなかった。
一体何を話してたんだろうか?
「はい」
刻也さんは携帯電話を私に渡すと、伸びをしてからまた冷蔵庫へ歩いて行った。
「あ……」
何話してたんですか? と聞きそびれてしまった。
けど、なんだか嬉しそうだから、まぁいっか……そう思いながら私は携帯をマナーモードに切り替えてから鞄に戻すと、またソファーに体を沈めた。
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