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「俺は、お前に付き合ってくれと言ったけどな。そっちじゃなくて、アッチ」
アッチと言って立てた親指が指したのは――
「テレビ?」
「じゃなくて! お前と観てたもんがあるだろうが馬鹿!!」
「ひゃっ」
ゴンと拳が落ちてきてもおかしくない程に大声で怒鳴られて、私は目を瞑って首をすくめた。
閉じた目をゆっくりと開いて見上げると、そこには苦笑いした刻也さん。
「もしかして……プティキャラ?」
「せーかい」
くしゃくしゃと頭を乱された。
いつもより強めのクシャクシャに、少し怒りが込められている気がする。
「ひゃっ、す、すみませんっ」
「はぁーもー。お前と居たら俺の心臓が持たない」
「や、も、ほんと、すみませんって」
なおもぐしゃぐしゃにする手を掴んで離すと、じろりと見下ろされた。
しばらく私を見下ろした後、刻也さんの口角がゆっくり上がって、ものすごく意地悪そうな笑みを浮かべる。
「な……なんですか?」
雰囲気の変わった彼に何か嫌な予感がして、恐る恐る尋ねる。
すると、今までに聞いたことも無いような声で、耳元でそっと囁かれた。
「萌優……抱いてもいいのか?」
脳髄まで響きそうな、コレなんて言うんだろう。セクシーボイスとでもいうんだろうか。
耳元で囁かれただけで、足が震えそうになる。
訳の分からない熱が身体の内側からこみ上げてきて、全身が茹で上がったかのように熱くなる。
言葉にならなくて、口を開いてもそのまま閉じるを繰り返して、まさしく金魚状態になった。
「あ、の」
やっと出た言葉もこれだけで、私はドキドキしすぎて心臓がもう止まるんじゃないかと思いながらも、それでも刻也さんを見る目を逸らせずに声を掛ける。
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