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いそいそと化粧水をつけ髪を乾かすと、ジャージに着替えた刻也さんが出てきた。
眼鏡を外したその表情がなんだか新鮮でドキドキする。
見つめすぎたのか、首を傾げた刻也さんに「……どした?」って尋ねられて、俯きながら首を振った。
どうでもいいことが、どれも新鮮で、どれも嬉しい。
どうしてこんなに、刻也さんの見せてくれるすべてが嬉しいんだろう。
今日の夕方ころまでは、私はこの世の終わりくらいに最低な状態だったのに。
今のこの状況と比べたら、本当に今日一日の出来事とは思えないほどの様変わり様だ。
「ほら」
いつの間にやら用意してくれたらしいコーラを差し出されてそれを受け取ると、早速DVDをセットし始める刻也さん。
「はぁー、やっと続き観れるな」
ニッと笑った顔はまるで少年だ。
よっぽど見たくて堪らなかったのかな?
でも、それでも私と一緒じゃないと見たくないって思ってくれてたんだよね?
そのことが嬉しくて、ワクワクした表情の刻也さんが可愛くて、私は彼の左腕に抱き着いた。
ぎゅーっと抱きしめていると「萌優」って呼びかけと同時に、私の腕からスルリと抜け出た刻也さんの腕が肩に回される。
「始まるぞ」
「はぁい」
そんなやりとりすらも嬉しすぎて、満面の笑みを浮かべて答えた。
今まで観劇の時に合った20センチの距離はもうない。
私の居場所は、腕の中だ。
恥ずかしくて、でも嬉しくて。
温かさを感じるそこが、今日から私の居場所。
ずっと、そうだったらいいな……そう思いながら、私は幸せを噛みしめて液晶画面を見つめた。
ずっとって、ずーっとだなぁなんて、訳の分からないことを考えながら見ていたはずが――気が付いたら朝だった。
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