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「どうか、したんですか?」
海人さんの名前がチラリと聞こえたから、聞いてはダメな話でもないだろうと思い尋ねると、ようやく意識がこちらに戻ったらしい刻也さんが私をやっと視界に入れてくれた。
「あぁ。悪い……いや、長井がさ」
「長井さん?」
「お祝いするとか、言いだして」
彼は言葉にしながら、はぁーとため息をついた。
「お祝い? 何のですか?」
ふと、誰かの誕生日かな? なんて思いつつ尋ねる。
ため息をつくようなお祝いってなんだろうか。
「お前……天然か?」
「? いや、そんなことないと思いますけど」
「気づかぬは本人ばかりなりって感じだな」
「へ……?」
「あのな。俺と、お前の話」
「はい?」
さっぱり見当がつかなくて、天井を見上げた。
私と刻也さんの話……?
なんだろう、それって。
「あーもー。俺、絶対苦労するな、コレ」
「えー?」
「いや、なんでもない」
向かいから手を伸ばすと、刻也さんはクシャリと私の頭を撫でてくれた。
「とりあえず、先食うぞ」
その行動にも言葉にも理解が示せないまま、私は再びベーグルを食べ始めた。
この時、まともに付き合った経験のなかった私には、想像出来るはずもなかった。
私と刻也さんが付き合うことに対して、周りのみんなも喜んでそれを祝いたいなんて気持ちを持ってくれるなんてことを。
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