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私に身体を預けてくれる――?
寄りかかってくれる重みが嬉しくて、涙が滲む。
ずっと、抱きしめたくてたまらなかった男(ヒト)。
やっと、私、抱きしめてあげられたのかな……
いま、腕の中のこの人が、どうか切ない顔をしてないといいな。
そう思いながら私は、腕に力を込めて彼の右肩に顔を埋めた。
多分、恵さんのことがあるからだろうなって思う。
どこか行ってしまう不安。
でも……私は、恵さんじゃないから。
それだけは信じてほしい、なんておこがましいだろうか?
「私、恵さんとは違います」
「え?」
私の言葉を聞いて刻也さんは、私に預けていた体を起こすと背にあった腕を解いて、私の目をじっと覗き込んできた。
至近距離はまだ抵抗あるけど、目は逸らさなかった。
「恵さんじゃ、ないです。私は私で。声も違うし。性格も多分違って。だから、もし……」
「待て」
怪訝な顔をした彼が、今度は私の口を塞いだ。
「お前、勘違いし過ぎ」
ふーっと息を吐いて、また小さく吸ってから刻也さんは続ける。
「俺、恵のことはきれいさっぱり忘れてるから」
苦笑いを浮かべて、私を見つめる。
その瞳は嘘は吐いていないって思うけれど、本当にそうなの?
「俺が不安なのはお前のせい」
口を塞いでいた手を離すと、その手でベシッと額を叩かれた。
「イタッ」
「馬鹿なこと、お前が言うからだ」
「馬鹿って」
「馬鹿だろ? 俺、お前に恵を重ねたことなんて、一回もないからな。と言うよりさ」
「は、い」
瞳に宿った鋭さに怯んで体がビクリと震わせながら、恐る恐る返事をしながら目の前の人をそっと見つめた。
「多分、ずっと……お前のことの方が気になってたよ」
「え?」
「俺に偉そうな口聞いてた女の子が、どうなったんだろうってな」
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