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「お前が、覚悟決めたら泊まりに来いよ。それまで待っててやるから」
「……あの、ね。質問ですが」
「ん?」
優しく包むような瞳が好きだって思いながら見つめ返す。
「あの、胸が触りたかっただけ、なんて」「あるわけないだろ馬鹿」
私の馬鹿な質問は、速攻で切り捨てられた。
「うぅっ。ごめんなさい」
「ほんと、俺の気持ち届いてんの?」
「と、届いてますっ!」
恥ずかしいけど勢いよく返事をすると「じゃあいいよ」ってぽんぽんと頭を撫でられた。
その重みが心地よくて目を閉じる。
――離れるの、嫌だなぁ。
そう思いながら、カチャリとベルトを外すと、名残惜しさを滲みだしまくりながら扉を開いた。
「ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げてから顔を上げると、丁度夕日が差し込んで刻也さんの表情が隠れた。
「あぁ。また月曜な」
そう言った彼の顔が見えなくて残念だったけれど、少しだけ寂しそうに聞こえたのは私の願望のせいだろうか?
寂しい気持ちを振り切るように家の前まで早足で歩く。
扉の前で下を見下ろすと車が停まっていて、窓から覗く彼に顔を綻ばせながら小さく手を振って走っていくのを見送った。
たった1日のことなのに、濃過ぎた昨日は、もう遠い昔の様だ。
自分の家に帰った私は、気分は浦島太郎だった。
今までと全く同じ自分の家なのに、なんだか別世界のように輝いて見えるのは……きっと、刻也さんのせいなんだろうなって思うと、一人でにやけてしまった。
大好きで、大好きすぎる人に想いが通じるって、本当に幸せなんだ。
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