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ニッと意地悪く笑って、私の頬を摘まむ。
摘ままれた頬はもちろん痛くはない。
でもその部分が熱を持って仕方なくて戸惑う。
「えらほうって」
まともに喋ることが出来ない私を刻也さんはククッと笑う。
手を離してくれる彼をぷっと頬を膨らまして上目づかいに睨むと、笑いながら私の髪を撫でた。
「覚えてないの? もっぷちゃん」
「も、それ禁句です!」
「ククッ」
髪を撫でる手が優しいけれど、どこか中学生の私を見ているようにも感じて、おまけにまた笑うのが悔しくて私はつんと横を向いた。
――もぉおっ、なんでもう普通なの?
私、これでもすごく苦しかったんだから。
恵さんのことを見てるんじゃないかって、すっごく辛かったんだからっ。
自分が辛かったことを知りもせず笑われて、悔しくて涙が滲んできた。
きゅっと緩く拳を作って、たまらず握りこんでしまう。
「こら」
目ざとくそんな私の様子に気づくと、刻也さんは横を向く私の顎を掴んで自分の方に向かせる。
無理矢理だけどその大きな手に逆らえなくて、私もじっと見つめ返すしかなくなってしまった。
「泣くなよ」
「だって、補佐、がっ」
「補佐じゃないだろ、萌優?」
「ん……」
瞳に滲み始めた涙をきゅっと拭かれて目を見開くと、ふぅと息を吐いてから刻也さんは話を始めた。
「初めて会った時のお前、似てたんだ昔の恵に」
八重子先輩から聞いた話と照合して、それに痛みを覚える。
この人の口から、一体何度、嘘だったらいいのにと思う事実を聞かされなきゃいけないんだろう……
そう思うと苦しい。
でも、逃げないって決めたから。
ちゃんと受け止めなきゃって、私はまたきゅっと拳を握りしめた。
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