結:結ぶ恋(続き)

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 「ククッ。お前は反応し過ぎ」  そう言ってぺちりと痛くない平手が額に飛んできた。  「うぅ……っ」  声にならなくて、でも嬉しくて顔があげられない。  どうしてこんなに補佐は余裕なの?  私だけが、一瞬で補佐から刻也さんに見えちゃうからダメなの!?  「か、っか、係長って! 何に困ってるんですか!?」  「さーな。パソコンか何かじゃねーか?」  「さーな、って……」  「うんうん唸ってたから。主任呼んでやっただけだ」  「え……」  この人、まさか適当なこと言って主任追い出したんじゃないの? と訝しげな目線を送る。  けれどそんな私の視線をものともせずに、飄々と彼は言ってのけた。  「大丈夫だって。俺、信頼厚いから」  全く問題ないって感じで、ケラケラ笑う刻也さん。  もぉもぉっ!  この人ってば、人の心配をよそに楽観的すぎって言うか!  私情挟んで勝手し過ぎ!!  なんて思うけれど、二人きりになれたことが例え場所が会議室だろうと嬉しい私も、同罪かもしれない。  「江藤」  「は、はいっ」  すっかりピンクな妄想に飛び立ちかけていた私に、彼は江藤と呼んで現実に引き戻してくれた。  萌優って呼んだのは刻也さんなのに……先に上司モードに戻るなんて、ズルい。  そう思いながらジロリと睨むと、手に握っていたらしい小銭をチャリと渡された。  「珈琲、買ってこいよ」  「あ、はい」  名前を呼んで何かと思ったのに、内容を聞いて拍子抜けする。  この状況でコーヒー?  いいけど、何で?  首を少し傾げながらも頷くと、補佐は厳しい表情で私に言い含めた。  「10分以内だからな」  「へ?」  「時間」  「あ……はい。5分もあれば十分だと」  「お前のも買っておけよ」  「あ、ありがとう、ございます。じゃ、行ってきますっ」  私はそう言って頭を少し下げてから、会議室を飛び出した。  中で、一人残った彼が「10分以上はないぞ、萌優」って言いながら、ぞうきんを壁に放り投げたことも知らずに。  最近、刻也さんはカウント好きだな、なんてトンチンカンなことを思っていた。
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