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「握るなってお前は」
手が伸びてきて、私の手を前の時みたいに温かく包む。
前は遠く感じたその温もりが、今日は近い気がして、場違いにも頬が一瞬緩んだ。
「明るい元気な声の感じが。とても似てた。でも……」
「でも、何ですか?」
「大人になったお前は違う」
「恵、さん、と?」
「萌優とアイツは全然違う」
それは、複雑でもあった。
違うことはいいのか悪いのか。
その点については、分からない。
それが表情にも出ていたんだと思う。
「だから勘違いするなって」
苦笑しながら、ギュッと手を握りしめられた。
握りしめられた手に温かさを感じて、俯き加減になりつつあった顔を上げる。
「俺が好きなのは、お前なんだから。分かれよ」
面と向かってまた『好き』と言われて、心臓が慌ただしく動き始め、顔が熱くなった。
時々、こうやって爆弾を落としてくるから、私の心臓がおかしくなって仕方ないんだ。
「恵のことは好きだと思ってた。けど……アイツがアメリカに行って、離れてみてから分からなくなった。変わらないようで、でも中学のころとは変わってしまったアイツを俺は……どこかで受け止められてなかったんじゃないかってことに気が付いた。
だから、告白する気持ちにまでなれなかったのかもしれない」
一息吸ってから、また刻也さんは続けた。
「再会した時から、もしかしたら俺とアイツの道は違ったんじゃないかって……そう思えるようになったのは、中学生のもっぷちゃんに会ってからだ。昔の恵を思い出すお前に触れて、あぁ違うなって分かった。まっすぐで伸びやかなこの感じが好きだったって」
その顔が柔らかく包むような表情で、私の苦しかった心に穏やかさを取り戻す。
手を握りこむのを止めた私の手を、今度は彼がギュッと握りしめた。
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