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そうすれば、聖の両親も結婚を反対しても、聖じゃなくて私に攻撃してくるだろうと思ったから。
「香織さんの真っ赤な唇、綺麗ですね」
何も知らない聖は、馬鹿みたいに私を褒めた。
でも聖の家に到着すると、私の知らない聖がそこにいた。
私をエスコートするように車のドアを開けてくれた時、隣の家を見て動きを止めた。
「そらちゃん!」
そらちゃん、と呼ばれた子を見ると、その子は私を睨み付けていた。
二重の大きな瞳。
長い睫毛、リップも塗ってないだろうに艶々の唇。
細くてしなやかな体。
モデルか人形のように綺麗な彼女は、私がなりたかった理想の姿をしていた。
その子は聖を見ることもなく、すぐに踵を返し駅の方へ歩いていく。
「あれ……? 無視されちゃいましたね」
寂しそうに笑う聖は、私を見ていなかった。
「今の子は?」
「お隣の仲良しさんです。お互い鍵っ子でしたから、いつも夕飯を一緒に食べてたんです」
「……へぇ」
「自然と食べなくなったんですが、やっぱり離れると僕なんて忘れてしまいますよね」
そう力なく笑う聖を見ると腹が立った。
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