番外編 『あの日』

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「お水か何かお持ちしましょうか?」 そう言われて、不覚にも涙が溢れた。 頼れる人もいなくて、 このまま嘉山さんと部屋に入ったら何をされるか分からないし。 怖いし、情けないし、惨めだし、 なのに彼女のそばにも行けなくて。 ボロボロと涙を流せたのは、この人が優しそうだったから。 優しくて、 赤の他人だったから。 弱さを見せれるのは、俺を知らないから。 「逃げましょうか」 「は?」 「この鍵の人から」 PRADAの皮のキーケースから見えるのは、ランボルギーニのキー。 ああ、この人、さっき嘉山さんからキーを投げ渡された人か。 財力を見せつけられても、あんな怖そうな人でも、 この人は見ず知らずの他人にこんな事言えるんだ。 「さぁ、此処に居たらすぐに来ますよ。早く此方に。従業員用の部屋の裏から出ましょう」 権力やら仕事やら、恋情やら……俺が苦しむ事から救ってくれたのは、 忘れもしない、聖さんだった。
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