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「なんだ? 怖い顔して」
あの時に乗って来ていたLamborghiniの助手席で、俺は機嫌が悪くなるのを必死で押さえようとしていたけど、
無理だった。
何回思い出しても、一ミリも狼から愛情が感じられない。
「『あの日』を思い出してたんだよ。狼が、権力で無理矢理俺に酷いことして、更に事務所を潰すとか」
「面倒だったんだよ。手っ取り早くお前を手に入れるには、それが一番簡単だった」
「……結局、四年かかったんだから遠回りだろ」
サングラスをかけた狼は涼しげに澄ましているけど、段々腹が立ってきた。
「でもまぁ、遠回りしたおかげで聖さんと出会えたのか?」
「そうだろそうだろ」
感謝しろと言わんばかりに頷く狼は無視しとくとして。
「いや、狼に会わなかったら遅かれ早かれ出会えてたのか。そらのお隣さんだし。
て事は、狼が居なかったら、俺と聖さんでそらを取り合ってたのかもしれないか」
「着いたぞ。降りろ」
車から狼はさっさと降りると、出てきたマンションの管理人に車ごと渡す。
管理人室の前には、ホテルやbarみたいな待合室が有り、ソファや噴水、無人ピアノが鳴り響いている。
ワンフロアに一室しかないこのマンションは、エレベーターに乗り込むと自分の階のボタンがある部分に鍵を差し込む。
何もかもが俺とは住む世界が違う。
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