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住宅街。アスファルトの一本道を、住宅の塀や、所々切れかけの街灯が囲む。最早月光をあてにするそんな何時もの通学路の帰宅途中、男子高校生はある男に話しかけられた。
「君に、これをさしあげましょう」
知らない人から、物を貰ってはいけない。そんなのは、ごくごく当たり前の、母親から教えて貰う母親教養の一つには入っているだろう。
つまりは常識。その様なごく当たり前の常識を、この学生、伊弉諾悠は持ち合わせていた。片手に持つ学生鞄、手の甲を肩に乗せる。肩越しに運ばれた黒革の鞄は背中と密着し、ブランブランとぶら下がっている。
(怪しい)
黒髪のツンツン頭が、風に触れた。ついでに、ボタン一つ開けられた学ランも風に触れた。伊弉諾がそう思うのは、母親教養からのおかげである。母に感謝するべきである。全体的に、うん、普通、そんな風に評価されてしまいそうな彼の顔にも、眉間に皺と言う立派な個性が出来上がっていた。勿論、母親教養のおかげで略。
第一、黒づくめの男がそんな風に話しかけて警戒をしない訳がない。黒い帽子で顔を隠しているが、変質者で有る事に間違いない。
「えーと、何くれるんですか?」
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