第二話.『バケルガール』

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 それが初日と、二日と続く。三日四日には、ゆっくりとほとぼりが冷めていき、そして一週間経つ頃には、誰も彼に話しかけなくなった。あれだけ話しても、あれだけ自己PRしたとしても、誰一人、伊弉諾悠の内面に関心を持った人間が現れなかった。何故、現れなかったか。何故、誰も興味を示してくれないのか。答えは単純だ。  ゲームは好きかと問われて、彼はやった事が無いと答えた。  勉強は好きかと聞かれ、普通かなと答えた。  スポーツは好きかと誘われ、苦手だと断った。  部活は何やるのと勧誘を受け、やるきはないとその手を払った。  趣味は何かと、特技はあるのかと、そう聞かれれば、何も無いし、何も出来ないよと答えた。  そんな何もしない、何も出来ない空っぽな彼には、人から興味から惹かれる物など持ってなかった。話しかけられなくなるのは当たり前、友達になろうと思わないのは当たり前。そう。単純な話だ。至極、簡単な事なのだ。  クラス全員は、伊弉諾悠に興味が無かった。  ただ、それだけの話だった。  気付けば彼は、スターから一人ぼっちに。一週間経った頃には、彼は一人ぼっちとなった。クラスで大人しいアイツ。何時の間にか、彼の肩書はその程度のランクまで落ちていた。それから、喋らないアイツ。暗いアイツ。根暗なアイツ。クラスで邪魔なアイツ。時間が経てば経つほど、関心を持たれなかった男の人気が落ちていく。経てば経つほど、彼の居場所が消えていく。彼の存在する意義が消えていく。  「俺のいる意味って、何?」
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