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トイレの一室でお弁当を食べている時、ふと彼はそう思った。小学生の時に思ったその一言が、そのフレーズが、より一層深く濃く心に響いた。勿論、悪く、惨く、酷く、残酷に心を血塗れにした。たかだか中学生の幼稚な心を駄目にするのには、割と簡単なフレーズだった。
そんなある日だった。転校してきて一か月、そんな日だった。
伊弉諾の席の前に、立つその男。良く知る彼、誰よりも仲がいい彼。伊弉諾のたった一人の友人である宮崎礼。彼は、鼻眼鏡をしていたのを良く覚えている。
鼻眼鏡の男は手を差し出しながらこう言った。
◆
「水無瀬さん。安心して。まだやり直せるよ。まだ、君の居場所は残ってるよ」
「……流石、同じ境遇者だけあって理解が早い。でも無理。私の居る意味はもうない」
「いや、ある……ッ!」
同時に、昔言われたあの言葉、伊弉諾を救ってくれた、彼から送ってくれたあの言葉がよみがえる。伊弉諾は、水無瀬に手を差し出しながらこう言った。
『俺と、友達になろう』
伊弉諾はそう口にした。宮崎はそう口にした。
「空っぽ同盟……って感じで、どう?」
続けて、そう付け足しながら伊弉諾はほほ笑んだ。あの時と同じように、嬉しそうに、幸せそうに微笑んだ。水無瀬は、どう口にしていいか分からない様子で、もじもじと動く。何を言えばいいか、どんな顔をすればいいか、少し困った顔をする。そして暫くして、彼女は彼の手を掴んだ。
「センス無い」
そして彼女は彼と同じようにほほ笑んだ。
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