第二話.『バケルガール』

33/33
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
 トイレの一室でお弁当を食べている時、ふと彼はそう思った。小学生の時に思ったその一言が、そのフレーズが、より一層深く濃く心に響いた。勿論、悪く、惨く、酷く、残酷に心を血塗れにした。たかだか中学生の幼稚な心を駄目にするのには、割と簡単なフレーズだった。  そんなある日だった。転校してきて一か月、そんな日だった。 伊弉諾の席の前に、立つその男。良く知る彼、誰よりも仲がいい彼。伊弉諾のたった一人の友人である宮崎礼。彼は、鼻眼鏡をしていたのを良く覚えている。  鼻眼鏡の男は手を差し出しながらこう言った。  ◆   「水無瀬さん。安心して。まだやり直せるよ。まだ、君の居場所は残ってるよ」  「……流石、同じ境遇者だけあって理解が早い。でも無理。私の居る意味はもうない」  「いや、ある……ッ!」  同時に、昔言われたあの言葉、伊弉諾を救ってくれた、彼から送ってくれたあの言葉がよみがえる。伊弉諾は、水無瀬に手を差し出しながらこう言った。  『俺と、友達になろう』  伊弉諾はそう口にした。宮崎はそう口にした。  「空っぽ同盟……って感じで、どう?」  続けて、そう付け足しながら伊弉諾はほほ笑んだ。あの時と同じように、嬉しそうに、幸せそうに微笑んだ。水無瀬は、どう口にしていいか分からない様子で、もじもじと動く。何を言えばいいか、どんな顔をすればいいか、少し困った顔をする。そして暫くして、彼女は彼の手を掴んだ。  「センス無い」  そして彼女は彼と同じようにほほ笑んだ。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!