「なんでですか?」

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「なんでって……僕が先にいたんでしょ?君が後から来たんじゃないか」 「でも……本当に、なんでですか?」 「僕もそんなつもりなんて欠片もなかったよ」 だって君、と賀山先輩が淡々と言った。 「僕がいるから絵、やめたんでしょ」 ブレザーを脱いで、ボタンを外して、着崩して、聖書を開いてポーズを取る。 ため息混じり。 「だから私は、賀山先輩が大嫌いなんですよ」 ざり、 「そっか……羽山は嫌いなんだ」 「嫌いですっ!」 「僕は結構嬉しかったけど」 ざり、とまた筆とカンヴァスが擦れる音。 「羽山が来てくれて、嬉しいよ、僕は」 「わっ、わっ、私は嫌ですっ!」 解ってるよ、と賀山先輩は言った。穏やかに、笑って。時折、哀しくなるくらい優しくなるのは、狡いと思う。
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