第11話

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 由実より一足先に会場を出て、あたしは冬の道を一人で歩いていた。  由実は親交のある先生方の何人かと会話していた。あたしは相変わらずそんな空間にはいることができなくて逃げ出してしまった。 「ごめんね。またゆっくり飲もうね。ありがとう」それだけ送信して携帯を閉じた。  揺れる髪が頬を撫でて、乾いた落ち葉が木枯しに舞う。 陳腐だが繊細な情景はあるべき姿のまま瞳に吸収されて脳に焼かれる。  信也がもう一度だけ絵を描きたかったと言ったとき、あたしは実家の両親と姉夫婦が毎年旅行に行く時期を見計らって、信也を実家に連れて行った。  実家は一軒家で広いガレージがあった。そこを勝手にあの部屋と同じような即席のアトリエにした。アパートの一室ではできないような無茶もできる広いアトリエに。
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