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洪は俺の存在には気づいていない。
洪に先を促され、手下の男がニヤリとしてから俺から視線を外した。
一対一で対峙し、俺が恐怖を覚えた相手――。
あの苛立ちが急速に蘇った。
飲み会の場所は、風林会館を過ぎて直ぐのビルの2階に入った割烹屋の座敷だった。
二十数人がやっと収まった座敷には、色の悪い刺し身や既に冷めていそうな揚げ物が所狭しと並んでいた。
店長のくだらない訓示を聞き、新人専業の水野と真理子がそれぞれ型通りの挨拶を述べ、渡辺の音頭で乾杯となった。
俺は店長から一番遠い端の席に陣取り、苛立ちを鎮める様に手酌でビールを呷った。
専業達は、最初の15分で粗方の料理を胃に詰め込み、後は飲み放題の酒をどれだけ喰らえるかを、まるで競い合っているかの様な雰囲気だ。
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