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姿が見えなくなって手を下ろす。
航の去り際の言葉を思い返しながら店を出た。
「里紅さんって呼ばれ方してたかな……?」
会話らしい会話も今初めてしたはずだ。航が四〇四号室に引っ越して来たその日の夜に挨拶はしたけれど、お互いの名前を呼び合うまでの会話はなかった。
年が近いわけでも、気が合ったわけでもないのに。
「…………」
――もしかして、子ども扱いされてる?
大人から見れば高校生でも子どもではあるだろうし、里紅自身、普段ならば気にするようなことではないのだが、出会い頭に「大学生だと思っていた」と言ったのに対して先の発言。
正直、複雑。
顔をしかめていても時間は進む。
四階の自分の部屋に戻って買って来た朝食を食べ、鞄を持ってマンションを後にした。
里紅の通う学校はマンションの最寄り駅から三駅進んだところにある。
私立双葉学園。
全校生徒約六百名のこの学校は高等部のみの学校で奨学金制度が豊富ということもあってか家庭の事情による志願者が圧倒的に多い。
特別進学科と普通科がある中で、普通科はさらに文系、理系、文理系と三つのコースを選択することが出来る。
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