プロローグ

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「特に角部屋は家賃も高めだからねぇ……。ありがたいよ」  へぇ、角部屋に来るのか。羨ましいなぁ。 「その人、お金持ちなんですか?」  話しながら増井さんがレジに置いた缶ビールのバーコードを通しながら尋ねる。……どうでもいいことだけど、未成年は買っちゃダメって時に鳴るアラームがいちいちうるさい。 「さてね。個人の収入なんざ賃貸の会社の人しか知らないんじゃないかい?」 「どんな人なのか増井さんも知らないんですか?」 「いんや、会ったことは会ったよ。若い男性の一人暮らしだそうだ。里紅ちゃん気を付けてね?」  代金を貰って缶ビールをそのまま渡した。  気を付けるとは?  増井のおじさんは絶対おかしな思い込みをしている。  そんなことを言うのなら、許可を出さなければ良いじゃないかと声に出しそうになって、もしかしたら私のあずかり知らぬところで大人の事情が交錯していたのかも。  新しい入居者が来るのは五月五日。言わずと知れた子どもの日。だからなんだという話ではあるが、今日は五月三日。緑の日だ。つまり二日後には私に隣人さんが出来るということだ。  楽しみじゃないと言えば、嘘になる。 .
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