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現れたのは大学生に見えなくもない若い眼鏡を掛けた男。管理人から若い男の一人暮らしだと聞いてはいたが、学生の一人暮らしでしかも角部屋とは金持ち以外に何があるというのか。
ぐるぐると思考を巡らせていると、目が合った。
「初めまして、この度四〇四号室に入る岩月 航と言います。後で改めて挨拶に行ってもいいですか?」
爽やかな笑顔に、里紅の行動が遅れた。
「四〇五号室の新堂里紅です。……えっと、これからバイトなので八時以降なら……」
「そうですか。こっちも片付けとかあるのでそれくらいになると思いますが、これからよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ……」
里紅たちを避けて引っ越し業者が荷物を運んで行く。独特の雰囲気に動けなくなった里紅は「岩月さーん」という業者の声に助けられた。
「それじゃ」
手を振って岩月航と名乗った新しい入居者は四〇四号室の扉の鍵を開けて中に消えた。
呆然と見ていた里紅はバイトに行く途中であることを思い出し、思いの外時間が経っていたことに焦りを覚える。
階段では本当にギリギリかもしれないと隣のエレベーターに目をやると、丁度四階で止まっていた。
乗り込んだエレベーターの中で隣人となる男の姿を思い出す。
掴みどころのない里紅よりも頭一つ分背が高かった。優しい人なのだろうと会話から推測出来る。
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