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恨むだけで朝食がどうにかなるわけはなく、煮え切らない感情に顔をしかめつつ、財布を開けた。
給料日を四月末に迎えていたことと、連休中にお金を使うことが無かったので残高にはかなりの余裕がある。
時刻は六時十五分。
里紅は少し考えてから制服に着替えて財布片手に部屋を出た。
こんな時に住んでいるマンションの一階にコンビニがあると心強い。すっかり慣れ親しんだコンビニに入ると、早朝で客入りが少ないからか店内を掃除している店員の目が半分閉じていた。
心の中で「お疲れ様です」と呟き、おにぎりやサンドイッチの並ぶコーナーへ進む。
おにぎりの定番のツナマヨ、鮭、おかか、梅。その他数種類と、サンドイッチの定番であるハムカツを始めとする見た目にも鮮やかな野菜の数々。
目移りしてしまうが里紅は朝食はご飯ものと決めているのでおにぎりに狙いを絞る。
気分はおかか。
手を伸ばすと右側からもおかかに伸びる手が見えた。
ぶつかり合う前にお互いの手が止まる。
「あ……」
「おはようございます」
岩月航が先に手を下ろして笑った。
隣人であるはずの男がどうして同じタイミングで同じおにぎりに手を伸ばしていたのかが理解出来なかった里紅は固まったまま見上げる。
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