二章 自称村一番の美女

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   地面に目を落とすと、今にも咲き誇ろうとしている茜色の大輪を見つけて、摘み取る。これも薬草となる花だ。ついでに葉も何枚か採取し、腰のバックから取り出した麻布袋へ入れて“ボックス”に突っ込んだ。  見上げた東の空が赤い。もうそろそろ日暮れなのだ。辺りは暗くなりつつある。 「……帰りましょうか」  小さく呟いて、村へと足を向けた。 ××××××××××××××××  村に戻ると、薄闇に包まれた村の、明かりのついたあちらこちらの家から、夕食の匂いか、良い匂いが漂ってきていた。  まずは村長に報告だ。森から出てきたリューティスに、家の外を出歩いていた数少ない者達が一斉に視線を向ける。 「あ、依頼の」  こちらに気がついたのか、うっすらと無精髭を生やした若者──最初にリューティスを村長宅まで案内してくれたケインが、駆け寄ってくる。 「依頼、終わったのか?」 「えぇ。狩ったサンダーベアも持って帰ってきましたよ」  “ボックス”の口から黄色い毛皮を覗かせると、ケインはなぜか毛皮ではなく、“ボックス”をじっと見つめていた。 「ギルドカードと依頼書もそっから出してたけど、それって“ボックス”か?」 「え、えぇ……」  “ボックス”は無属性中級魔法である。誰でも使える無属性という属性の、中級魔法でありながら初級魔法並みに簡単なこの魔法を使って、凝視される理由がわからない。 .
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