閑話 その手紙が

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   ──それは、リューティス一行がラジュワから出立(しゅったつ)する前日のことであった。  ここ数日で習慣になりつつあるのが、ギルド“月の光”の支部に朝から出向くことである。  この日も、同じようにギルド“月の光”の支部に向かった。フィーとヤエと共に依頼を探し、適当なものを剥がし取って受付の列に並ぶ。  今日も混み合っている依頼の受付の列は、受付嬢たちの手によって手際よく消化されていき、あっという間にリューティスの番だ。  リューティスの顔を見て、僅かに目を見開いた受付嬢は、リューティスがギルドカードを提示する前に口を開いた。 「リューティス・イヴァンス様でしょうか」 「え、えぇ……」  何の用であろうか。それよりなにより、毎日百以上の冒険者の依頼手続きをしているだろう彼女が、自分の名前と顔を覚えていることに驚く。  この街に住む冒険者の顔ならば、覚えていてもおかしくない。しかし、リューティスは数日前にこの街に来たばかりの旅の冒険者だ。 「デッディーより紙を届けに来ている方がいらっしゃいます」  彼女が手で示したのは、ギルドの中の酒場で朝から酒を飲む四十過ぎであろう冒険者である。  手紙というと、デッディーで書いたものの返信だろうか。  自分が出立したあと起こったに違いない混乱を想像して苦笑した。  しかし、聖蘭の背に乗ってこの街まで来たリューティスに追い付いてきたということは、彼は馬を飛ばしてきたのだろう。休みをとりつつであっても、かなりの疲れが溜まっているに違いない。 .
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