ー 其の肆 受難 狂犬の帰還 ー

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 それ故に、土方の『機嫌』は悪化の一途を辿っていたのだ。『気に入らない』と言う雰囲気を、隠そうともしない。  実のところ。隊士達とて『気付いている』が、芹沢も怖いし、土方も怖いので、表だって口に出さぬだけ………。  二人の仲が『すこぶる』悪いことは、周知の事実、『公然の秘密』となっていたのだった。 蒼 「………え、と。俺、の………『知らない、方』……ですよ、ね………?」  以前、『紹介』された面々(と言っても幹部だけだが)の中にはいなかったはずだが、聞き覚えはあった。  あれは確か………、土方に逢った(拾われた)翌朝。近藤と山南に『紹介』された時、山南が口にした『名』であった。 ーあの時は、何のことだか、わからなかったけれどー  土方は、蒼の言葉には答えず、独り『思案』に暮れていた。土方にとっては、芹沢が帰ってこない方が良かった。  いっそのこと。『不慮の事故』にでも巻き込まれ、死んでくれでもした方が、良かったのだ。    ー『誰かの死』を望むなど、不謹慎だー  けれども。それが偽らざる、土方の『本音』でもあるのだ。だが、土方が『そう願う』気持ちも、わからなくもない。
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