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ー文久三年 京 市中ー
数日前から、降り続いていた冷たく細い、『銀の針』の如き雨が、漸く止んだのは、夜が大分更けた頃だった。
雨の所為で気が滅入っていた男は、他の家人を起こさぬよう、そっと夜の散歩へと洒落こんだ。
別段、『目的地』があるわけでもない。雨上がり特有の『清(スガ)しい空気』を思う存分、満喫し『憂鬱な気分』を、払拭する為だった。
静まり返った京の町は、男の気分を幾ばくかは、晴らしてくれたようである。
ー男の名は、『土方 歳三』と言ったー
端麗な容姿と、明晰な頭脳を兼ね備えてはいたものの、その苛烈なまでの『厳格さ』から、仲間達からでさえ『鬼』と揶揄される人物だった。
気の赴くままに、京市中を散策していた土方が、ふと、ある橋の手前で足を止めた。
前方の橋の、中央辺りの欄干部分に、小さな『影』が蹲っている。いつからいたのか、ずぶ濡れなっているようである。
土方
(あれは………『子供』?こんな夜更けに、こんな場所で。『妖(アヤカシ)』、か………?)
得体の知れぬ『影』に、ゆっくりと、注意深く近付く土方。
しかし、『影』は、土方が近付いても、ピクリとも動かぬ。
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