ー 其の弐 甘党剣士と昼の京 ー

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 その『奥ゆかしさ』は、確かに蒼の『美徳』でもあるが、些か『遠慮し過ぎ』な感も、否めない。  そもそも、いつまでも『こんな格好』させておくわけにもいかない、と言うのも『事実』であったのだから……………。 沖田 「まさか、このままにしておく気は、ないでしょう?『芹沢さん』が帰ってくる前に、何とかするべきですよ。」  沖田の言葉は、確かに『正論』だ。こんな格好をさせたままでは『襲って下さい』と言っているようなものなのだから………。 珍しく、まともな意見を述べる沖田に、土方は素直に感心した……… 沖田 「だって、いつまでも土方さんの、ぶかぶかの着物じゃ、襲いたくッ………いえ、可哀想だし。」 ………のだけれど。続く沖田の科白に、『感心したこと』を、瞬時に海の彼方に放り投げた。 土方 「……………てめえ。今『襲いたくなる』って、言い掛けなかったか?」  土方の声が、異様にどす低い。眉間の皺は深くなっているし、表情は不機嫌そのものだ。 沖田 「さあ、『空耳』じゃないですか?嫌ですねぇ、歳取ると耳まで遠くなって………。」 ービシッ、ブチンッ 室内に、不吉な音が響いた気がした……………
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