笑顔をなくした子供。

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          ☆ミ  深々と降り続く雪。イヴは大きな暖炉のある部屋の中でじぃっとそれを眺めていた。  受け皿の上に立てられたキャンドルの火がゆらゆらと揺れ、マグに入ったホットチョコレートからは湯気が上がっている。  はぁ、と息を吐くと窓ガラスが白く曇る。イヴはそれを気に入っているのか、拭いては曇らせ、拭いては曇らせと繰り返していた。  イヴの住む家は山の中腹にあった。周囲を山に囲まれた、一面の銀世界。こんな雪の日には鳥の声さえも届かずに辺りはしんと静まり返り、まるで世界中から切り取られたかの如く静寂に包み込まれる。 「何をしているんだい?イヴ」  と、不意に彼女の名前を呼ぶ声。その声に振り返ると、そこにはコートに積もった雪を払い落とすお父さんの姿があった。 「そんな窓の側にいると寒いだろう。さぁ、こっちに来て火に当たりなさい」  イヴはロッキングチェアに積まれたクッションに飛び乗った。煌々と燃える暖炉の火はとても暖かく、冷えた指先がすぐに温まっていくのを感じた。  イヴはホットチョコレートを一口啜り、小さく息を吐いた。お父さんはびしょびしょに濡れたコートとハットをポールハンガーに掛け、黒猫のナイトが丸くなりうつらうつらと眠るソファーの横に腰掛けた。 「お父さん、お仕事、忙しい?」  イヴがお父さんに問う。お父さんは少し微笑んで、「大丈夫だよ」と言った。  イヴのお父さんはトナカイの世話をしている。お祖父さんの仕事に携わる仕事の中で最も重要な仕事だ。トナカイに餌をやり、体調を管理し、健康で元気なトナカイを育てている。とても大変な仕事だ。  しかし、トナカイ無くしてお祖父さんの仕事は決して成功しない。それが分かっているからこそ、お父さんは黙々とトナカイの世話をするのだ。イヴには、それがとても誇らしかった。 「今年は結構雪が降り続けているからね、去年よりももしかすると大変になるかもしれない。けど、大丈夫。お父さんの育てたトナカイは世界一だからね、こんな雪道なんかに負ける筈がない」  そう言ってお父さんは笑った。そんなお父さんの姿を見て、イヴもつられて笑ってしまった。  
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