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赤鼻のトナカイ、モンタナとソリを繋ぎ、イヴはソリに荷物を載せた。ナイトは既にソリに乗り込み、新たな親友モンタナを警戒しつつブランケットを羽織る。
いよいよ旅立ちの時である。
クリスマスまであと僅か、クリスマスを楽しみにしていない子供を笑顔にするために、イヴは向こうの世界に旅立つのだ。
「………イヴ。出発の前に少しいいかな?」
お父さんはイヴを呼び止める。イヴがお父さんの元に向かうと、お父さんはふぅ、と小さく息を吐き、沈痛な面持ちでゆっくりと口を開いた。
「………イヴ、昨日話した事だけど………イヴが魔法を使えない理由、それはお父さんが向こうの世界の人間だからなんだ」
お父さんは続ける。
「イヴがお祖父さんの後を継いでいつかサンタクロースになりたいと思っているのは勿論知っている。そして魔法が使えないせいでサンタクロースになれるかどうか不安を抱いている事も。だから………ごめんね、イヴ。僕のせいで、僕が向こうの世界の人間なせいで、僕が魔法を使えないせいで、イヴを悩ませる事になってしまって………」
お父さんはイヴに向かい頭を下げる。イヴはそっとお父さんの手を取り、両手でぎゅっと握り締めた。
「………イヴ?」
「………使えるよ?」
イヴがそう呟いた。それが何を意味するのか、お父さんには分からなかった。しかし、お父さんの顔を見上げるイヴの笑顔を見た瞬間、お父さんは全てを理解した。
「お父さんは魔法を使えるよ?お父さんは毎日クリスマスの為にトナカイのお世話をしてるでしょ?だからお祖父ちゃんは安心してクリスマスにお仕事を頑張れるんだよ?」
「それは仕事で………」
「お父さんは立派なトナカイを何匹も育ててるじゃない。それは立派な魔法だよ。お父さんは立派なトナカイを育てる魔法が使えるんだよ」
イヴのその言葉にお父さんの瞳から大きな涙がこぼれ落ちた。今までお父さんは自分のせいで娘が悩んでいると思っていた。自分のせいで娘が苦しんでいると思っていた。
だけど、それはお父さんの取り越し苦労だったのだ。イヴはお父さんが魔法を使えると言ってくれた。何の疑いもなく、笑顔でそう言ってくれた。
「ありがとう…イヴ。さぁ、もう行きなさい。気を付けて行くんだよ」
「うん、ありがとうお父さん。いってきます!」
そしてイヴを乗せたソリは勢いよく走り出すのであった。
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