雪の降らない街。

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   イヴを乗せたソリが走り出して三十分ほど経過したのだろうか、空を走り抜けるソリはまるでそこだけ切り取られたかのような夜に包まれていた。そこはトンネルのような形をしており、四方八方にキラキラと幾千もの星が輝いていた。 「うわぁ、凄いよ、ナイト!一面の星空!!とっても素敵な光景ね!!」 「これはポラリストンネルって言ってな、こっちの世界と向こうの世界を繋ぐトンネルなんだよ。これを抜けたら………」  ぶわっ、と強い風を感じたかと思うと、真っ暗なトンネルから太陽の元へと突然飛び出したイヴたち。そこはイヴが一度も見たことのない風景であった。  遠くにぼんやりと見える真っ白な山々。足元には縦横無尽に灰色の線が走り、見たこともない建物が無数に連なっている。  四方八方を山々に囲まれ深い森の中で暮らしてきたイヴにとって、背の高い建物によって覆われたこの場所はとても不思議な場所に感じられた。 「これが………向こうの世界」 「うわっ!凄っげ!!人が豆粒みたいに見えるぞ!?ってか何だあれ?凄っげぇ速い豆粒がウヨウヨいるぞ?」 「多分それは“自動車”ってヤツだと思うぞ?さて、イヴ。その問題の男の子だけど…どうやって探す?」  あ、とイヴは小さく呟いた。  考えてみたらどうやってあの子を探せばいいのか、何の作戦も考えてない事にたった今イヴは気付いてしまったのだ。 「………まさか考えてなかったのか?」 「だって、あの時はまだこっちの世界に来れるかどうかも分からなかったし………」 「まったく仕方がないなぁ、イヴは。それじゃあ僕が魔法を使うとしようか」  そう言うとナイトはシッポをふるふると振るわせる。 「ふんふん…なるほど。なぁモンタナ、あと三キロくらい先を右折、そのまま二ブロック進んだ近くにソリを停めてくれないか?」 「了解」  ぶわっ、と加速するソリ。ナイトの指示通りモンタナは数キロ走った後、右方向へと旋回する。  ゆっくりと高度を落とし、ビル群の隙間を走り抜けると、やがてソリはガタガタと音を立てながら地面へと降り立った。 「ぃよっし、到着!」  ぴょこんとソリから飛び降りるナイト。ピクピクと髭を動かしながら、辺りをキョロキョロと見渡す。 「これが………こっちの世界なんだ」  ソリを降り、イヴが初めて降り立った世界、そこはクリスマスだというのに雪のない街であった。  
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