君の為に出来ること。

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          ☆ミ  そこは雪のない街だった。  イヴたちの住む世界ははっきりと四季が訪れる場所であった。  春になると花が咲き蝶が舞い、夏になると蛍が飛び向日葵が揺れ、秋になるとトンボが稲穂の先に止まり、冬になると全てが真っ白な雪に包まれる。  そんなイヴが初めて訪れた、冬なのに雪のないその街は、イヴにとって驚くべきものであった。 「ねぇ、ナイト。本当にここで合ってるの?だってここには雪がない。きっとまだ冬じゃないんだよ」 「いや、ここら辺で間違いないよ。それにイヴ、この世界には冬だけど雪が降らない場所っていうのが沢山あるんだよ」  冬なのに雪が降らない…その常識はずれな事実にイヴは愕然とした。  イヴにとってクリスマスに雪は欠かせないものであった。深々と降り積もる雪の中、プレゼントを持ったサンタクロースがやって来て、そして子供たちに笑顔を与えていく…それがイヴにとっての常識だった。 「向こうの世界とこっちの世界は色々と違うものなんだよ。さて、と…とりあえずその子のところに行かなくちゃな」 「うん…あ、ちょっと待って?行くのはいいんだけど…」  ソリをどこに置いておけばいいのか。イヴたちのいる場所はコンクリートとアスファルト、そして背の高い建物に囲まれた場所であった。道行く人々も皆空から舞い降りたイヴたちを不思議そうな目で見ている。 「あー…どうしよ?とりあえず引っ張ってく?」 「けどそれじゃあモンタナが可哀想だよ。ずっとイヴたちを乗せてソリを引っ張ってきたんだから…」 「心配するな。ソリの一つや二つ、俺の魔法があれば…」  ふわっ、とソリが光に包まれ、そして突然イヴの前から消え去った。 「え?あれ?モンタナ、今一体何をしたの?」 「魔法だよ魔法。俺たちトナカイはこういう時の為に自在にソリを出し入れ出来る魔法が使えるんだよ。ほら」  チリン、という鈴の音。見るとモンタナの首輪にはイヴが乗ってきたのとそっくりな小さなソリがぶら下がっていた。 「うわぁ、凄いね、モンタナ。モンタナも魔法を使えるんだね」 「まぁこれくらいなら簡単なものさ。さぁ、早くその子のところに行こう」  そしてイヴはナイトとモンタナと共に、男の子のところへと向かうのであった。  
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