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イヴは悩んでいた。そしてお祖父さんやお母さんが言っていた事を思い出していた。皆はトマスの事を笑顔にすることは不可能だと言っていた。とても難しい事なんだと。
確かに、イヴには分からなかった。どうしたらトマスを笑顔にすることが出来るのか、その方法は皆目見当もつかなかった。せめてお祖父さんくらいの魔法が使えたら、もしかすると現状を打破する何かが思い付いたのかもしれない。けれど、イヴにはそれが出来ないのだ。イヴはまだ、魔法が使えないのだから。
「…わざわざあの子の為に遠いところから来てもらったのに、悪いわね。けど、こればっかりはどうすることも出来ないわ。残念だけど…」
どうすればいいんだろう。トマスの為に、何をすればいいんだろう。どうしたらトマスは笑顔になってくれるのだろう…イヴはひたすらそんな事を考えていた。
「なぁ、イヴ。さすがにこれは無理じゃねーか?サンタの爺さんが言っていたように、全ての子供を笑顔にする事は不可能なんじゃ…」
「それは分かってる。全部の子供たちを笑顔にするのは難しい事なんだって…けど…イヴはそれでも、トマスを笑顔にしたいの。トマスを笑顔にしてあげたいの」
ふふっ、とトマスのお姉さんが小さく微笑む。
「ありがとうね、イヴちゃん。あの子の為に一生懸命になってもらって…けど、もういいのよ?いつか私が手術代を稼いで母が元気になりさえすれば、きっとあの子も…」
「それじゃあ…ダメなの」
イヴが口を開く。
「イヴは今年のクリスマスをトマスに笑顔で迎えてほしいの。お母さんとお姉さんとトマスに笑顔でクリスマスを迎えてほしいの。だから…」
「イヴちゃん………」
サンタクロースの孫娘であるイヴにとってクリスマスは全てだ。その年にいくら何があろうと、クリスマスだけは皆が笑顔で迎えてほしいのだ。そうだなければ、あんなに一生懸命にクリスマスに向けて働いているお祖父さんの仲間たちが報われない。
それに、イヴはいつかサンタクロースになるのが夢なのだ。お祖父さんように立派なサンタクロースになって皆を笑顔にするのが夢なのだ。ここで諦めてしまっては、その夢さえも諦めてしまうようで、イヴにはそれが我慢出来ないのだ。
「イヴはいつか立派なサンタクロースになるの。その為にイヴはトマスを笑顔にしなければいけないの。だから…」
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