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「もうすぐお祖父ちゃんのお仕事の日だね」
十二月二十一日。クリスマスまであとわずか。お祖父さんの周りの皆はこの時期になると皆忙しそうにしている。それもこれも、世界中の子供たちに笑顔を届ける為だ。
イヴのお母さんはお祖父さんの仕事の補佐的な仕事をしている。詳しい内容は知らないけれど、お祖父さんの仕事はお父さんやお母さんを始め色々な人達の協力があってこそ成り立つものなのだ。
「今年も無事に終わるといいね」
ロッキングチェアに座りうとうとするイヴ。大きな壁掛け時計は既に夜の九時半を指していた。
「そうだね、無事に終わるといいね。けど、心配ないよ。お祖父さんにはお母さんがついているし、お父さんだってついているんだから。それだけじゃない、沢山の人がお祖父さんを支えているんだから、きっと今年も無事に子供たちに笑顔を届けてくれるよ」
お父さんがそう言うのだ、きっと大丈夫なんだろう。きっと今年もお祖父ちゃんは無事に皆に笑顔を届けてくれる筈だ。
「さぁ………もうおやすみ、イヴ。明日も早く起きるんだろう?ゆっくりお眠り」
スクッ、とお父さんはソファーから立ち上がり、そして小さなイヴの身体を抱き抱える。
イヴはお父さんに抱き抱えられ、そして隣の部屋のベッドに運ばれていった。
イヴの部屋には沢山のぬいぐるみが並んでいる。どれもこれも、お祖父さんがプレゼントしてくれたものばかりだ。ぬいぐるみをプレゼントされる度に、イヴはとても嬉しかった。どんなに悲しい事があろうとイヴは笑顔になった。
きっとお祖父さんは魔法が使えるのだ。イヴはそう考えていた。世界中の皆を笑顔に出来る、そんな幸せな魔法が使えるのだ。
イヴの眠る小さなベッド。真っ白なシーツは洗い立ての石鹸の香りがし、掛け布団は羽のように軽くふわふわとしていた。
その中に潜り目を閉じると、すぐに眠れそうである。
「お父さん………明日、お祖父ちゃんのところ、遊びに行ってもいい?」
「ん?そうだなぁ………お仕事の邪魔をしないんだったら、いいよ。イヴが来てくれたらお祖父さんもきっと喜ぶだろう」
おやすみ、イヴ………と、お父さんはイヴにキスをして、部屋の電気を切った。真っ暗になった部屋。白いレースのカーテンの向こう側、窓の外ではまだ小さな雪の結晶がはらはらと空から降ってきていた。
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