君の為に出来ること。

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  「………俺が何だって?」  突然聞こえた背後からの声にイヴたちが後ろを振り返る。するとそこには仕事を終え帰宅したトマスが立っていた。 「トマス、もう仕事は終わったの?」 「うん、明日はクリスマスイヴで忙しくなるだろうから今日は早く帰っていいって…それより姉さん、こいつら、誰?」  不審者を見るような目付きでイヴたちを見渡すトマス。 「えっと、あの…はじめまして、トマス。あたしイヴ。サンタクロースの孫娘なの」 「はぁ?サンタ?それ本気で言ってんの?」   着ていたコートを脱ぎ椅子に掛けると、トマスは冷蔵庫の扉を開けジュースを取り出しゴクゴクとそれを飲む。 「こら、トマス。お行儀悪いわよ。お客様が来てるのに」 「喉乾いてるんだよ、仕方ないだろ?それよりお前らどこかで見たことあるような…あぁ、思い出した。さっき玄関の前にいた奴らだ。で、何か用なの?」 「え?あ、うん。ねぇ、トマス。明後日はクリスマスだよ?トマスはクリスマス、楽しみじゃないの?」  単刀直入に問うイヴ。トマスはそれを鼻で笑い、大きく背伸びをした。 「クリスマスねぇ…悪いんだけどさ、忙しいんだよね、俺。クリスマスだからって遊んでる場合じゃないし。それに…」  トマスの表情が翳る。 「…母さんは今もまだ病院で病気と戦ってる。それなのに俺だけクリスマスを楽しむなんて…そんなの無理だ。俺はいつか、きっと母さんの手術代を稼いで病気を治してあげるんだ。その為なら…クリスマスなんか、いらない」  クリスマスなんかいらない…その言葉がイヴの心に深く突き刺さった。イヴにとってクリスマスは人生の全てだ。サンタクロースを夢見るイヴには、クリスマスの為に自分は生きていると言っても過言ではない。気付けばイヴはその瞳から大きな涙を流していた。 「こら、トマス!イヴちゃんを泣かせるなんてどういうつもりなの!ちゃんと謝りなさい!」 「えっ!?わっ、ちょっ…な、なんだよ!?なんで突然泣き出したんだよ、お前!?」 「ひっく…グスッ…ごめんね?けど、だって…クリスマスなんかいらないって…」  イヴはとても悲しかった。自分がその人生の全てと決めたクリスマスが、そんな風に言われてしまう事が。とても悲しかった。  
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