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「わ…悪かったよ、そんな風に言って…けどさ、お前に何と言われようと、俺はクリスマスを楽しむ事なんか出来ないよ…悪いけど」
そう言い残し、トマスは再び上着を羽織ると何処かへ行ってしまった。頑ななトマス。しかし、それはイヴも重々承知していた。お母さんを心配するトマスの気持ちは痛いほどに伝わっていた。
「…ごめんね、イヴちゃん。トマスも悪気があった訳じゃないの。だからあの子を許してあげてね?」
コクリ、とイヴは頷いた。そしてイヴはナイトとモンタナになだめられるようにトマスの家を後にした。
トボトボと通りを歩くイヴたち。道行く人たちは皆何かに執心し、無関心そうな顔でイヴたちの横を通り過ぎていく。近くにあった公園のベンチに腰掛け、イヴは小さく溜め息をついた。
「どうするんだ?イヴ。もう諦めて帰るか?」
モンタナの言葉にイヴは俯きながら首を横に振る。
「…イヴね、ずっと考えていたの、お祖父ちゃんの代わりにトマスを笑顔にしてあげたいって。いつかサンタクロースになるために、その練習になればいいなって。けど…今は違う。イヴね、トマスの為に何かしてあげたいって思うの。トマスが笑顔になれるように、何かしてあげたいって…」
俯きながら、イヴがそう語る。モンタナはその言葉に「そうか」と答えると、首を振りイヴのソリを元の大きさに戻した。
「…だったら、するべき事は一つだ。イヴ、こんなところでクヨクヨしていてもしょうがない。俺たちがトマスの為にしてやれる事は一つ。トマスの為に最高のクリスマスをプレゼントしてやる事だ」
ブルン、とモンタナが首を大きく振った。
「いや、けどよ。実際どうすりゃいいんだ?トマスが変わっちまったのはお母さんが病気になっちまったからだろ?そんなの僕たちにどうにか出来る筈が…」
「出来る」
モンタナがはっきりとそう答えた。
「俺やお前には不可能だ。けど、イヴなら出来る。イヴ、お前はサンタクロースの孫なんだ。世界中の子供たちに笑顔を届ける立派な人物の孫なんだ。だから…」
モンタナのその言葉にイヴはすっくと立ち上がる。その瞳にはもう涙はなく、強い意思の光が宿っていた。
「………やる。イヴが絶対トマスを笑顔にしてみせる!」
トマスの為に果たして自分は一体何が出来るのか…ひたすらそれを考えながら、イヴは真っ赤なソリに乗り込むのであった。
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