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☆ミ
十二月二十四日。クリスマスイヴ。トマスは夕闇に暮れる街並を自転車で駆け抜けていた。クリスマスのせいかいつもひっきりなしにごった返す人込みと車の喧騒がまるで嘘のように静かで、遠くに聞こえるジングルベルがやけに耳につく。
家から家へと新聞を配り歩くトマス。吐いた息が白く煙り、ゆらゆらと空へと消えていく。最後の新聞を郵便受けに入れる頃にはトマスの疲労もピークに達し、トマスは自転車を押しながら販売所へと戻っていった。
「夕刊、配り終わりました」
販売所へと戻ったトマスがそう告げると、奥から社長の奥さんが焼きたてのパンを持って姿を現した。
「ご苦労様、トマス君。今日はクリスマスイヴだっていうのに精が出るわね。これ、良かったら食べない?お腹空いたでしょ?」
「ありがとうございます。いただきます」
トマスは椅子に腰掛け、差し出されたパンを頬張る。
「トマス君、お母さんの具合、どうなの?」
「…分かりません。お医者さんの話では手術をしない事には治りはしないだろうって…だから俺が頑張って手術代を稼がなきゃいけないんです」
「そう、トマス君も苦労してるのね。大変だろうけど頑張ってね。おばさん応援してるからね?」
ありがとうございます、と頭を下げるとトマスはパンを詰め込み、販売所を後にした。
道すがら、トマスは道端に落ちていた小石を思いきり蹴り飛ばした。苦労してるのね、だと?応援してる、だと?俺がどんな思いをしているのかも知らないくせに、俺がどんな気持ちでいるのかも知らないくせに。
大人はみんなそうだ。俺の境遇を知るや否や、大変だ、頑張れ、応援してると綺麗事ばかりを並べてさも気にかけていると見せかける。本当はそんな事思ってもいないくせに…。
じわり、とトマスの瞳に涙が滲む。口では何と言おうと、誰も俺の為にお金を出そうなんて言い出しはしない。お母さんを助けようとなんてしやしない。姉さんも働いてくれてはいるけど、生活費と入院費を稼ぐので精一杯だ。
誰も俺の事なんか助けてくれないんだ…。
袖口で涙を拭きながら、トマスはとぼとぼと通りを歩く。泣いてなんかいられない、自分が頑張らないと、お母さんの病気は良くならない。子供が背負うには重すぎる十字架を背中に抱え、トマスは家へと向かっていた。
………その時だった。
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